2012年6月5日火曜日

2012年6月4日の日記 ヴァーチャル資本主義

テレビや新聞を見ると、やれ株安だ、やれ円高だ、TOPIXはバブル以来最安値だ、ヨーロッパの信用不安だ、等々騒いでいる。因果な時代に生まれついたものだ。金融資本主義は細かな数字の上がり下がりに眼を光らせる。その数字の浮き沈みに一喜一憂する。数字のちょっとした変化が莫大な損失と利益を吐き出す。人間という動物は、一体なんでこんな馬鹿げたことをやっているんだろう、と思う。ヴァーチャルなゲーム経済の駆け引きで、不利益を被るのは末端の人間である。


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今、友人に借りたチャールズ・ミンガスの『ミンガス・アット・アンティーブ』を聴いている。これが素晴らしい。チャールズ・ミンガスは私の一番好きなジャズ・マンだ。だが、実は私はミンガスのアルバムを手元に持っていない。彼のアルバムは全て友人に借り受けた。因みに、その次に好きなジャズ・ミュージシャンは、オーネット・コールマン(オーネットのアルバムでは『フリー・ジャズ』が最も好きだ)。三番目は、デューク・エリントン。そして、ジョン・コルトレーン、エリック・ドルフィー、マイルス・デイヴィスが同率四位かな。


チャールズ・ミンガスの音楽は汗臭くて泥臭い、熱気や体臭がムンと臭うような、こう言って良ければ、ちょっとばかりマッチョな音楽だ。ミンガスは、ルイ・アームストロングの荒々しさとデューク・エリントンの洗練とを同時に受け継いだ、いわゆるモダン・ジャズとしては類例のない音楽を作り上げたとわたしは思っている。異端、とまで言ってもいいかもしれない。エリントンの音楽というのも非常に独特で類するものがないが、ミンガスの音楽の孤立性、特異性というのは、ジェームズ・ブラウンやスライ・ストーン、更にはディアンジェロのそれに近いかもしれない。そのミンガスの魅力は、50年代末から60年代前半の傑作群に詰まっている。


吉祥寺に寄ったのでココナッツディスクでまたem recordsのレコードを買ってしまった。T.R. マハリンガムのPortrait Of A Prodigy : His Early Years, 1940s-50sというものだ。これがまた素晴らしい。南インドの音楽だが、時折お囃子のようにも聴こえるところがあり、「汎アジア」を感じる。


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昨日は寺島靖国さんの『JAZZ雑文集』という本を読んでいた。「雑文」の題にふさわしく、「へろへろ」なエッセイが並び、読んでいてなんだか気が抜ける。文章がちょっと変なところもある。ジャズと全然関係なかったり。でも面白い。「俺はそうは思わないなあ」とちょっと反感を抱いたり、「ふーん、そうなんだ」と思ったりしながら、妙な句読点の打ち方や、時折顔を見せる口語調などがなんとも愛らしく、読みながら心地良さを感じる。このような軽やかなエッセイを読むことは滅多にないので、楽しく読ませてもらっている。


この『JAZZ雑文集』を出版しているのはディスクユニオンの出版事業、「DU BOOKS」であり、これは「DU文庫」の第一弾である。ディスクユニオンはこのように出版にも力を入れ始めているし、制作部門も面白い音盤を出しており、頑張っていると(偉そうだが)思う。『JAZZ雑文集』は今年2月に出ているが、まだDU文庫の第二弾は出ていない。次が楽しみである。ところで、このDU文庫は装幀がとても凝っており、瀟洒なデザインが格好いい。実は、装幀の格好よさに惹かれて、この本を買った面もある。しかし、読むには少々難がある。まず、ビニールカバーが柔らかいために表紙として安定しないのと、ツルツルして持ちにくい(これはビニールカバー装幀の全ての本に共通する問題)。それと、二枚の紙を貼り合わせた紙が波打って、本を開くとベコベコする。更に、国内盤レコード風に「縦巻き帯」が付いていて格好いいのだが、これが本を開いたときにちょっと破れそうになる。装幀が凝っているのは嬉しいことだが、やはり、本を手に持って読んだときに読者がどう感じるかも考えて装幀をしてほしい、と思う。つまり、「用の美」である。

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