2013年1月6日日曜日

2012年の好きな音楽作品、好きな順に30作(24-20位)

 年が明けてしまいました。例によってためにならないコメント付き。

24. OKI meets 大城美佐子 - 北と南



 『北と南』というタイトルからはアイヌ音楽と沖縄音楽のフュージョンが想像されるが、OKIプロデュースによる大城美佐子のアルバム、という印象。10曲中7曲が沖縄民謡で、他にはOKIが歌う喜納昌吉の「レッドおじさん」、OKI作詞曲の「北と南」(もともとは『OKI DUB AINU BAND』に収録されていた曲)と「南と北」(「北と南」のヴァージョン)が収められている。
 「固み節」や「ヒンスー尾類小」、「ヤッチャー小〜泊高橋」といった曲では、OKIのトンコリと大城美佐子の三線とがユニゾンで演奏するという、おそらく音楽史上初の試みがなされており、非常にスピリチュアルで不思議な響きに心酔する。「ヨー加那よー」や「ランク節」では沖縄のリズムとトンコリのリズムが共存しており、沖縄音楽にさらなる複雑性と奥行きを加えている。また、OKIによるうっすらとしたダブワイズが随所でなされており、大城美佐子の浮世離れしたシルキー・ヴォイスと三線の音が幻想的に響いている。
 「北と南」は上述のようにダブ・アイヌ・バンドの楽曲で、ダブ・アイヌ・バンドが演奏し、大城美佐子の一番弟子である堀内加奈子(アルバム全編を通して太鼓を叩いている)がコーラスをしている。
 マスタリングはパードン木村。ブックレットの大城美佐子による各曲の解説がチャーミングでとても面白い。

 大城美佐子は2012年には登川誠仁との『デュエット』というアルバムも出している。こちらも傑作らしいが私はまだ聴いていない。

23. Ariel Pink's Haunted Graffiti - Mature Themes



 いつも通りの妙に分離の悪い、カセットテープのようにくぐもった酷い音質で収められた13曲。ソフト・ロックのような、60年代か70年代か80年代(けして90年代ではない)のバブルガム・ポップのような、とにかく一聴して耳障りの良すぎるポップスが並んだアルバムなのだが、恐ろしい違和感を伴っている。ポップな上っ面の下にものすごい悪意と毒気が蠢いている。一体何が彼をそうさせるのか。
 「金曜の朝/ベッドから起きて/僕は分裂症みたいだ(schnitzo)/日曜の朝にベッドから転がり出て/仔牛のカツレツ(schnitzel)が食べたい/仔牛のカツレツを食べてる/仔牛のカツレツを食べてる/仔牛のカツレツを食べてる…」("Schnitzel Boogie")
何を言っているのだろう、この人は…。クレイジーすぎる…。この「仔牛のカツレツのブギー」(笑)ではひたすら「仔牛のカツレツを食べてる」と繰り返すが、反復はアリエル・ピンクの音楽の基本になっている。同じフレーズや詞をぐるぐると繰り返すが、クラウト・ロックのような高揚感が得られるわけでもなく、居心地の悪い滞留感が渦巻くばかりである。"Nostradams & Me"はニューエイジ風のシンセがなかなか心地よく鳴り響くチルウェイヴ(というかヴェイパーウェイヴ)だが、「ノストラダムスと僕/さようなら! バイバイ!/災難だらけの世界はもうすぐ転覆するだろう」と、アリエル・ピンクは世界を闇に葬り去る。


22. oono yuuki - TEMPESTAS



 もしかしたら既に誰かが指摘しているかもしれないが、oono yuukiの音楽からはカナダのインディ・ミュージックからの影響を感じる。ゴッドスピード・ユー! ブラック・エンペラーのカタルシス、ブロークン・ソーシャル・シーンの抽象性と暴力的な疾走感、アーケイド・ファイアの叙情性と祝祭性…そういった要素が見え隠れする。

 スティール・パン、トランペット、ユーフォニウム、チェロ、フルート等々が変則チューニングされたギター、ベース、キーボードとアンサンブルを奏でる、というよりもユニゾンでマッシヴに鳴らされる。ドラムスはまるでハードコア・パンクのような速さと激しさで叩かれる。「せーの!」の合図で一挙に鳴らされる音塊の迫力に圧倒される。一方でパーソナルで叙情的な弾き語りの曲も併存している。
 この楽隊の奏でる音塊は、上述のカナディアン・ロックとともに、ジャンプ・ブルースやビッグ・バンド・ジャズといったアメリカ黄金期の(ブラック・)ミュージックにも影響されている。さらにはカントリーやフォークのエッセンスが、彼らのリズムや親しみやすいメロディに表れている(そのアメリカン・ミュージックからの影響といった点も非常にカナダっぽい)。
 しかし、既存の関係性や限定に抗おうとし、場所性を連想させないほうがいいとoono yuuki自身が語るとおり、そういった要素もマッシヴな音塊にぶち込まれることによって、ドロドロのガンボ・ミュージックとなる。多から一からへ、一から多へと往還する「嵐」という名のロック・レコード。


21. Action Bronson - Blue Chips / Action Bronson & Alchemist - Rare Chandeliers




 アクション・ブロンソンを名乗るひげをたくわえた巨漢のMC、アリヤン・アルスラニはアルバニア移民の子である。ニューヨークはクイーンズ出身、現在29歳という遅咲きで、もともとは料理人だったという変わった経歴を持つ。2011年にDr. Lecterという配信限定のアルバム(未聴)でデビューした。

 ※ちなみに、アクション・ブロンソンの料理の腕前は"Action in the kitchen"という一連のシリーズの動画で披露されている。ドヤ顔のアクション・ブロンソンが超高速で玉ねぎをカットする姿などが収められており(笑)、必見。


 クール・G・ラップを崇拝する彼のラップ・スタイルは、彼のラップを聴いた誰もが指摘するように、声からリリックから何からゴーストフェイス・キラーのそれに似ている。さらにサウンドはサンプリングを多用したファンキーなブレイクビーツで、王道の90年代のニューヨーク・サウンドである。ナズ、DJプレミア、ザ・ビートナッツ、モブ・ディープ、ノトーリアス・B.I.G.、そしてもちろんウータン・クランと 比較され、リヴァイヴァリストやゴーストフェイスのエピゴーネンと見られるのも仕方あるまい。今では「オールド・スクール」となってしまった黄金時代のイースト・コースト・ラップからの影響を、彼自身隠すことはない
 しかしながら、デビュー以来「ゴーストフェイス・キラーのパロディ」と呼ばれ続けてきたことに辟易したアクション・ブロンソンは、Blue Chipsの"Ron Simmons"で「俺の音楽がゴーストに似てるなんて言うんじゃねえ!」と苛立ちをラップしている。
 ドラッグとセックス、車やファッション、そして食事を何よりの愉しみとする快楽主義者、アクション・ブロンソンは、様々な食品や料理をメタファーとしてリリックに用いながら、そこへ独特のユーモアとペーソスを交える。彼はタコスを食べてハイになり、自らの巨躯を長野の善光寺の仏像に喩え、イングリッシュ・マフィンのキャッチコピーを引用し、TVスターのシェフの名をラップする。「俺はケーキとカネを手に入れ/フランク・シナトラをバックにステーキとロブスターを食べた」("Pouches Of Tuna")。

 2012年の二作めとなったミックステープ、Rare Chandeliersもなかなか良い。プロデュースは全篇アルケミストで、スクールボーイ・Qをフィーチュアした曲もある。
 彼は既にワーナー・ブラザーズとメジャー契約を結んでいる。メジャーデビュー作がどうなるか楽しみだ。

 ちなみに、同じくアルケミストがプロデュースした、オッド・フューチャーのドモ・ジェネシスのミックステープ、No Idolsも良かった。アクション・ブロンソンも参加している。


20. Actress - R.I.P



 アクトレスはデトロイト・テクノや初期のエイフェックス・ツイン(本作のジャケットは『アンビエント・ワークス』そっくりだ)を連想させるテクスチャーを持つ。とはいえ、彼はテクノの保守主義者ではない。テクノのレフトフィールドを行く単独の遊歩者、テクノの臨界点への挑戦を怠らない実験精神の塊である、と付け加えねばならないだろう。そのようなテクノの急先鋒が生み出したR.I.P.(安らかに眠れ)という名のアルバムは、IDMでもあり、一方でアンビエントでもある。しかしこのアンビエントは心を鎮めるような、解毒剤のようなアンビエントではない。毒を少しずつ盛るような、あるいは死へ向かう恐怖と苦痛を鎮める鎮痛剤のような漆黒のアンビエントである(なお、R.I.P.における死のモチーフについては野田努さんのレビューを参照してください)。
 "The Lord's Graffiti"や"Iwaad"といったハウスのマナーを保った曲においても、音響処理によって悪意がむき出しにされており、恐ろしい限りである。"Iwaad"でのズタズタに切り刻まれたハウス風のボーカル・サンプルは、まるで断末魔のようだ。