2011年12月30日金曜日

ホライズン山下宅配便『Hoca』



とんちれこーど」というレーベルがあります。彼らは「武蔵野音楽集団」を名乗っています。片想いや、アナホールクラブバンドといった、とんちれこーどの素敵な楽団の音楽に惹かれるうち、ホライズン山下宅配便との衝撃的な出会いを果たしました。

ホライズン山下宅配便とのファースト・コンタクトは「期待」という楽曲でした。


「期待」ホライズン山下宅配便 PV



それはもう衝撃でした。「期待」は直感に語りかけてきました。理解不能な天啓が突如降りてきたような、目から鱗がボタボタ落ちたような感覚。頭の上で電球が「ピカーン」と光るようなアレです。そして、「不思議」という言葉で片付けられない不思議さと、込み上げてくる笑い。そう、ホライズン山下宅配便にとって笑いは重要素です。

『Hoca』はホライズン山下宅配便の2010年のアルバムで、その「期待」が収められています(曲名の表記はなぜか「Qui→tai」)。といっても、ただ適当に曲が収められたアルバムではありません。コンセプトがあるのです。

「コンセプト病」*1と評されるほど、彼らは紆余曲折あるその長いキャリアの中で様々なコンセプチュアルなライブを行い、作品を残してきているようです。『Hoca』は、人類最古と言われていたネアンデルタール人の祖先と思われるデニソワ人よりさらに前の人類について、というコンセプト。例えば、「Abbbnesh/ekjuluius」という曲では、小さい人類「アブネシ」とそれを捕獲する大きい人類「エキュリウス」についての歌、といったように…。

さて。一見ハチャメチャなコンセプトですので、音楽もさぞかし奇天烈なのだろうと思われてしまうかもしれません。が、ホライズン山下宅配便の奏でる音楽というのは、とてもクールでタイトなグルーヴを軸に、歌い踊り、時に寸劇のようなものを挟み、時に破綻しながら突き進む、非常にかっこいいロックンロールです。ある意味、正統派なロック、なのかもしれません。それは、ビートルズやローリング・ストーンズ、あるいはキンクス、フリーと言った黄金期の英国ロックを思わせるダイナミックな演奏、そして美味なコーラスがホライズン山下宅配便の音楽をなしているからです。

と同時に、彼らのコンセプチュアルな活動、へんてこなダンスや演劇的要素も含めた総合エンターテインメント的な性格、頓智のきいたユーモラスな歌詞、木琴の響きなどを考えると、かのフランク・ザッパの宇宙も見えてきます(「HOTOKE」の複雑な演奏を聴いてください)。

兎にも角にも、この『Hoca』という28分ほどのコンパクトでクールな、架空の古代人類探索アルバムは素晴らしくかっこいい。そしてクエスチョンマークに溢れています。

また、熱く突っ走る演奏と、爆笑&落涙必至の名曲たちを堪能できるライブは本当に楽しいです。


厚着のモンプチ



*1 『ホライズン山下宅配便全曲解説』

2011年12月24日土曜日

スカート『ストーリー』



堕落に堕落を重ね、音のインフレーションによって荒野と化したJ-POP。その惨状に対し、気の利いたメロディーと美しくも厳しい言葉を携え、過去の音楽への愛を抱えた親しみやすい音楽は、今、インディペンデントの音楽家たちによって紡がれていると思います。いや、それは、かのはっぴいえんどの時代からそうであったのかもしれませんが。

とにかく、例えば前野健太ceroといった東京を中心にライブハウスで活動を続けるミュージシャンたちの音楽を聴くにつけ、こう思うんです。「ポップは彼らの手の中だ!」と。

スカートも、そんな古くて新しいポップを吐き出す素晴らしいミュージシャンです。

スカートこと澤部渡さんを初めて知ったのは、昆虫キッズのサポートとしてライブに参加しているのを姿を見た時でした(彼は今、なんとyes, mama ok?でベースを弾いているようです)。その後、彼がソロ・ミュージシャンとして活動していることを知りました。

彼の2nd作である『ストーリー』には、単純な共感に回収され得ない詩情と、美しく親しみやすいメロディー、引き締まって無駄のないバンドサウンドが凝縮されています(ドラムは昆虫キッズの佐久間裕太さんです)。彼のソウルフルな歌声と、「返信」などでのきめ細かいギターのカッティングを聴くと、スカートという名が「東京一のソウル・ミュージック」を指すようになる日も遠くないように思います。

スカートの後景には豊かで広範な音楽的素地が広がっているように思えます。それはかの山下達郎や、90年代の小沢健二やカーネーション、オリジナル・ラブのような佇まいですらあります。

また歌詞の面では、表題曲での「伝わらない言葉 抗ってまた捜す」といったフレーズや、「わるふざけ」の「舌打ちのようなメロディ」といった表現に、自らの言葉を紡ぎ出そうとする姿勢と素晴らしい閃きが感じられます。

ジャケットは、現在IKKIで『人類は衰退しました』を連載している見富拓哉の手になるイラストです。この辺りにも、澤部さんのポップというものに対する優れた平衡感覚が現れています。

売り切れ続出という『ストーリー』。素晴らしいレコードであるのは間違いありません。が、ライブで短い曲を矢継ぎ早に歌い継ぐ勢いがそのままパッケージングされているとは言い難いので、是非ライブに足を運ぶことを強く奨めます。


スカート「ストーリー」「返信」"shimokitazawa concert"vol.10