2011年12月24日土曜日

スカート『ストーリー』



堕落に堕落を重ね、音のインフレーションによって荒野と化したJ-POP。その惨状に対し、気の利いたメロディーと美しくも厳しい言葉を携え、過去の音楽への愛を抱えた親しみやすい音楽は、今、インディペンデントの音楽家たちによって紡がれていると思います。いや、それは、かのはっぴいえんどの時代からそうであったのかもしれませんが。

とにかく、例えば前野健太ceroといった東京を中心にライブハウスで活動を続けるミュージシャンたちの音楽を聴くにつけ、こう思うんです。「ポップは彼らの手の中だ!」と。

スカートも、そんな古くて新しいポップを吐き出す素晴らしいミュージシャンです。

スカートこと澤部渡さんを初めて知ったのは、昆虫キッズのサポートとしてライブに参加しているのを姿を見た時でした(彼は今、なんとyes, mama ok?でベースを弾いているようです)。その後、彼がソロ・ミュージシャンとして活動していることを知りました。

彼の2nd作である『ストーリー』には、単純な共感に回収され得ない詩情と、美しく親しみやすいメロディー、引き締まって無駄のないバンドサウンドが凝縮されています(ドラムは昆虫キッズの佐久間裕太さんです)。彼のソウルフルな歌声と、「返信」などでのきめ細かいギターのカッティングを聴くと、スカートという名が「東京一のソウル・ミュージック」を指すようになる日も遠くないように思います。

スカートの後景には豊かで広範な音楽的素地が広がっているように思えます。それはかの山下達郎や、90年代の小沢健二やカーネーション、オリジナル・ラブのような佇まいですらあります。

また歌詞の面では、表題曲での「伝わらない言葉 抗ってまた捜す」といったフレーズや、「わるふざけ」の「舌打ちのようなメロディ」といった表現に、自らの言葉を紡ぎ出そうとする姿勢と素晴らしい閃きが感じられます。

ジャケットは、現在IKKIで『人類は衰退しました』を連載している見富拓哉の手になるイラストです。この辺りにも、澤部さんのポップというものに対する優れた平衡感覚が現れています。

売り切れ続出という『ストーリー』。素晴らしいレコードであるのは間違いありません。が、ライブで短い曲を矢継ぎ早に歌い継ぐ勢いがそのままパッケージングされているとは言い難いので、是非ライブに足を運ぶことを強く奨めます。


スカート「ストーリー」「返信」"shimokitazawa concert"vol.10


0 件のコメント:

コメントを投稿