2012年12月30日日曜日

2012年の好きな音楽作品、好きな順に30作(30-25位)

 ツイッターで「ベスト・アルバム2012」を発表する人が多く、私もしてみんとてするなり。しかし、「ベスト・アルバム2012」などと大風呂敷を広げてランク付けするのは、何か傲慢さがあるように常に思っています。その傲慢さをなるべく避けてミュージシャンに敬意を払うため、私は「好きな音楽作品を、好きな順に並べる」ということにします(批評性のない感想文は読んでも得るものがないと思います…)。

30. CRZKNY - Struggle Without End / ABC EP (Atomic Bomb Code)




 トラックスマンのDa Mind Of TraxmanDJラシャドTeklife Vol 1: Welcome To The Chi(ラシャド自身のレーベル、<リット・シティ・トラックス>から。現在はダウンロード販売のみ。「スピン」のサイトでフル音源がストリーミングできる)という決定打の登場によって、かつては「マージナル」であった、シカゴの歪なビート・ミュージックは、世界中のトラック・メイカーとダンス・フロアに衝撃を与え、絶大な影響力を誇った。
 ジュークの影響力は、ここ日本でも非常に大きい(あの保守的で、目配せのうまい「ミュージック・マガジン」が特集を組むくらいなのだから(笑))。<プラネット・ミュー>からのコンピレーション、Bangs & Worksシリーズの二作は各ショップでロング・セラーを続けているらしい。食品まつりを筆頭にジュークのトラック・メイカーもどんどん増えており、あのtofubeatsもジュークに影響を受けたと思われるトラックを含むミックステープを上梓した。


 さらには日本産ジュークのコンピレーション『Japanese Juke&Footworks』もBandcampにて無料で配信されている。



 前置きはさておき、その『Japanese Juke&Footworks』にも参加している広島のジューク・アーティスト、CRZKNY(クレイジーケニー)は、ジュークのビートに渦巻く異様な(ブラック・)パワーを抵抗("We will resist"とCRZKNYは宣言する)へと差し向ける。とは言っても、ここに挙げた怒り狂う二作のEPはほとんどジュークではなく、ミニマル・テクノ(『ABC EP』の「Escape」はジェフ・ミルズ直系のトラックだ)や、ダブ・テクノ、ダブステップといった音楽を独自に昇華させたトラック集である。
 中でも、かの原発事故への怒りを存分にぶちまけた『Struggle Without End』がブチギレている。ジュークとナードコアとプレフューズ73を力づくで繋ぎ合わせるようなヴォーカル・チョップが特徴的で、アナウンサーの声、反原発デモ参加者の演説や怒号、「放射性物質は健康に影響はない」と語るどこぞの教授の言葉から任侠映画のセリフ等々がサンプリングされている。ジャケットはミュート・ビートの 『ラヴァーズ・ロック』を彷彿とさせる。
 ちなみに、CRZKNYを知ったのは「Make Believe Melodies」の記事でだった。

29. Jam City - Classical Curves



 ダンス・ミュージック、ひいてはエレクトロニック・ミュージックのリスナーやライターはジャンルを細分化したり、新しいジャンルに名前をつけたりするのを楽しむ性癖があるように思える(私もその一人かもしれない)。新しい音には、新しい名前がつけれられる。新しくなくても、それは「リヴァイヴァル」と名づけられる。
 ジャム・シティ=ジャック・レイサムの音楽は、間違いなくカッティング・エッジだ。しかし、ジャム・シティの音楽は一体どんなジャンルへ仕分ければいいのだろうか?
 シンセ・ポップ風の奇妙なほど明瞭なウワモノと、せわしなく駆けずり回るメタリックなビートがリスナーに突き付けられる。ダンス・ミュージックのようで、そう簡単には踊らせてくれない、複雑に構築されたエレクトロニック・ミュージック。往年のハウスのキラキラとした意匠をチラ見せしながら、居心地の悪い恐ろしいボーカル・サンプルや、インダストリアルなパーカッションが暴力的に挟まれる。
 特に二曲目の"Her"、そしてシームレスに連なる"The Courts"が白眉で、ここに上記した要素が全て詰まっており、初めて聴いた時に震え上がった。悪意のこもった、引き攣った笑みを浮かべたダンス・ミュージック。
 不穏なアートワークも印象的。<ナイト・スラッグズ>から。


28. TNGHT - TNGHT



 ネットの大海で育まれたラップ・ミュージックの急先鋒、トラップの充実した成果。ハドソン・モホークとルニスによるTNGHTは、サウスのバウンシーでナスティな感触をそのままに、さらにトラップを洗練させたように思える。<ワープ>からリリースされた、たった5曲のインスト・ヒップホップが収録されたこのEPは正しく衝撃だった。
 "Higher Ground"が素晴らしい。安っぽいハンドクラップ、性急なボーカル・ループ、ダーティな電子ホーン、遅く重たいバスドラムと突如現れるジューク風のチキチキとした複雑なビートが絶妙に絡み合っている。今年の私の最も好きなトラックの一つ。


27. Captain Murphy - Duality



 キャプテン・マーフィーとは誰なのか? タイラー・ザ・クリエイター? アール・スウェットシャート? フライング・ロータス?
 フライング・ロータスとアールのコラボレーション・ソング"Between The Friends"にフィーチュアされた謎のラッパー、キャプテン・マーフィーが衝撃のミックステープDualityをリリースした際、そのようにひとしきり盛り上がった(私は声の低さからタイラー・ザ・クリエイターだと思っていた。結局、フライング・ロータスだったわけなのだが…)。



 Dualityの衝撃は正体不明、経歴不明のラッパーが突如ハイ・クオリティなミックステープをリリースしたことにあった。初めて聴いた際にはとても驚いた(だってフライング・ロータスがプロデュースしているのだから(笑))。音楽もさることながら、映像付きでリリースされたDualityは、そのサイケデリックでフリーキーな映像もなかなかショッキングだった
 半分ほどはフライング・ロータスの手になるトラックで、ダーティで不穏であったり洒脱であったりと様々な顔を見せる。トラックにしろ、ラップにしろ、映像にしろ、人を喰ったようなイタズラっぽさがあり、とても楽しんで聴いた。それにしても、フライング・ロータスはラップがうまいなあ…。もし次作もあれば聴いてみたい。

26. Laurel Halo - Quarantine



 ジェシー・ウェア、ジュリア・ホルター、そしてグライムス(さらに、きゃりーぱみゅぱみゅ?)。今年は音楽性はバラバラだが多くの優れた女性ミュージシャンたちが優れた作品を出したように思う(彼女たちはどこかキャラクタリスティックだ)。そのように思う事自体、音楽が未だマッチョなものであることを表しているが…。
 ローレル・ヘイローのカッティング・エッジなエレクトロニック・ミュージックはなかなか衝撃的だった。ビートは霧の向こうでモヤモヤと鳴っているか、ビートがない曲も多い。ハーシュノイズやホワイトノイズを縦横無尽に操り、天上の方で彼女の声が鳴り響いている。
 彼女の音楽は人を震え上がらせる。"Carcass"のイカれっぷりが印象的で、スロッビング・グリッスルがネット・サーフィンしているようなトラックに、ローレル・ヘイローの金切り声混じりの歌が覆いかぶさる。恐ろしい。この恐怖が永遠に続くかと思えば、突如曲はぶつ切れで終わる。
 ジャケットはタイムリーにも個展が開催されている会田誠<ハイパーダブ>から。


25. Raime - Quarter Turns Over A Living Line



 <ブラッケスト・エヴァー・ブラック>からダーク・アンビエントの傑作。
 野田努さんがDOMMUNE内の「ele-king TV」にて紹介していたので、彼らのことを知った。野田さんによれば、近年の音楽の重要なキーワードとして「ゴシック」があるそうだ。ベリアル、アンディ・ストット、ティム・ヘッカー&ダニエル・ロパティン、シャックルトンなどを「ゴシック」と十把一絡げにするのは少し無理があるが、しかし、通底するゴシックな雰囲気があることは確かである。「居場所のない者が逃避する場所がゴシック」であり、それは「厨二病」のような音楽であるとも、野田さんは言っていた。
 ところで、「ゴシック」というキーワードは、ウィッチ・ハウスや、レイダー・クランらのオカルト趣味にも接続できる。詳しくは国分純平さんの素晴らしいブログを読んでほしい。
 レイムは逃避的な音楽だ。音楽からヴィジュアル・イメージから正しく「ゴシック・ミュージック」だろう。冒頭のヘリコプターが近づいたり離れたりするような音、あるいは船のモーター音や蒸気船の音が加工されたような音は、逃避の可能性とその不可能性の間を揺らいでいるようだ。ベリアルの音がディストピアめいた都市での一時的な逃避だとすると、レイムはディストピアを正面から突きつけるような残酷さを持っている。しかし、それに酔うのだ。これは半ばマゾヒスティックな陶酔かもしれない。
 などと書いていると、野田さんのレビューがアップされていた